中学生の頃、休み時間の廊下で「バタクソ」という名の出来事が定期的に行われていた。
それは、仲間内でジャンケンをして、最後に負けた1人を一定時間に皆で殴り蹴り続ける、というものだった。
今思えば、それは思春期のエネルギーを昇華し切れない、中学生男子特有の現象だったのかも知れない。
私は友達と共にその輪の中にいた。
それが良くない行為だと思っていながらも、集団の流れに身を任せる事しか出来なかった。
「こんな事は止めよう」と云う言葉は出せなかった。
ある日、「バタクソ」が行われている最中に1人の先生がそれを制止にやって来た。
今となっては、もう名前も担当教科も思い出せないが顔はおぼろげに覚えている。
普段は殆ど接点の無い女性の先生だった。
大声で注意され、皆、蜘蛛の巣を散らした様に去って行ったが、モタモタしていた私はその場に留まってしまった。
「怒られる‥」と観念していたら、その先生から思ってもいなかった言葉をかけられた。
「あんた、そんな綺麗な目をしているのに‥何でこんな事すんの」
私は今でもこの言葉が忘れられない。
この人は自分を認めてくれている、と思えた。
その後、私は二度と「バタクソ」の輪に入る事は無かった。
自分をきちんと認めてくれる人がいる、と思える事はとても大事だと思う。
そして耳を澄ませば、私達の回りにはそんな何気なくも大切な一言が満ち溢れているのかも知れない。