15,16,17と出逢った音楽一生モン⑩

第10回目

18歳(1990-1991年)
『K』

自分と音楽との関わりを振り返ってみると、高校3年の時の担任で生物学の教諭だったKという人物を思い出す。

Kは東京の某有名私立大学を卒業後、生物学の研究者としての人生をスタートしたのだが、家庭の都合で札幌に戻る事となり、食いぶちを稼ぐ為にやむなく教員になった(本人弁)という変わった経歴の持ち主だった。

当時の彼は20代後半。英語やフランス語など語学堪能、予備校講師の経験から得た大学受験テクニック、音楽や芸術、文学、哲学など多方面の分野に幅広い知識、またテニス選手としてスポーツマンの一面も持っていた。

「文句の付けようのない」という形容詞がピッタリ当てはまりそうな存在だったのだが、いわゆる空気を読むような事をせず、歯に布を着せぬ言動も多かったので、校内ではかなり風変わりな(失礼‥)存在だった。

クラスメイトの中には「自慢話が多くて鼻持ちならん」とKを嫌う者もいたが、不思議と僕は尊敬の念を持って話や授業を聞くことが出来た。

印象的だったのが、高校3年の夏休みの出来事。

生物の授業で学んでいたウニの生態を実際に観察してみようというKの提案で、僕を含めた有志数名が彼の運転する車で小樽忍路の水産試験場に行く機会があった。

その移動中、車内にはそれまで聞いた事のない不思議な音色に溢れた曲が流れていた。

アーティスト名を尋ねたら『バンドだよ』との返答。

「???。バンド名を尋ねているのに‥。」と思いながらも、ひとまず「バンド」というキーワードを覚え、後日レコード店で探索。

それがThe Bandの「The Shape I’m In」という曲だと判明。すっかりThe Bandのファンになり、その時に購入したベスト版CDは今でも愛聴版)。

The Bandにはガースハドソンとリチャードマニュエルという個性豊かで素晴らしい二人のキーボーディストがいたのだが、その時に感じた不思議な音色というのが彼らの演奏するオルガンやクラビネットという楽器で、それらはギターから鍵盤楽器への僕の指向の広がりにかなりの影響を及ぼした。

もう一つ印象的なのが、秋の学校祭での出来事。

クラスの模擬店としてカラオケ喫茶を開いていたのだが、休憩中に誰かが持って来ていたカシオトーン(こんなヤツ)

の自動伴奏機能使ってアドリブの真似事をしていたら、Kが驚いた様に笑いながら「山下は大学に進学してジャズをやったら良いよ」と感想を述べてくれた(すっかり気分を良くした僕は、その後「ジャズ」と「大学進学」を意識する様になった)。

彼からは自分の興味を突き詰めた結果として流れから逸脱して変わり者と言われても、それは全然OKだという事を教わった。

高校卒業後、Kとは会えていないのだが、いつか再会出来た時には感謝の言葉を伝えたいと思っている。

あなたのお陰で人生の階段を正しく踏み外す事が出来ました」と。